【賛同の呼びかけ】高畑事件でマスコミ宛の抗議文・要望書

被害者を追いつめない報道を!

この間の「高畑事件」の報道について、以下のような抗議文および要望書を報道機関に送ろうと考えています。賛同いただける個人、団体の方は9月18日までに 性暴力を許さない女の会のメールアドレス(asa198811@hotmail.co.jp)まで お名前と連絡先(メールアドレス)をご連絡ください。

できるだけ早く送りたので、締切りが短くて申し訳ありません。

たくさん賛同を集めたいと思いますので、拡散どうぞよろしくお願いいたします。

高畑事件マスコミへの抗議文・要望書(性暴力を許さない女の会呼びかけ).pdf
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報道機関各位

 

私たちは「性暴力被害者」のサポートをしている団体・個人です。私たちは8月23日に高畑祐太元容疑者が起こした強姦致傷罪についての報道内容に、強い憤りを感じ、抗議文と要望書を各報道機関に送付いたします。

 

私たちが抗議したい内容、そして要望したいのは以下のことです。

 

1.被害者を特定するような情報を報道しないこと

2.被害者の受けた被害を軽んじるような報道をしないこと

3.加害行為の原因が被害者にあるかのような報道をしないこと

4.加害者擁護につながるような報道をしないこと

5.被害実態の正しい理解と、被害者サポートとなる記事や番組を企画すること

 

 

1、 性暴力犯罪の被害者は、被害にあったことを誰にも知られたくありません。

だから、被害者を特定するような報道は許されません。

 

貴社は、日頃どういう姿勢で犯罪報道をされていますか。卑劣な犯罪を許さないという姿勢でしょうか。それとも、被害者がどんなに傷ついてもいいから、(一部の)視聴者・読者の好奇心を満たそうという姿勢でしょうか。

性暴力犯罪はその性質上、被害者に対して特段の配慮を必要とするものであることを理解されていますか。

 

 

2008年度の内閣府による調査によれば、「異性から無理矢理に性交された」という女性は、15人に1人の割合にのぼります。そのうち「誰にも(被害を)相談できなかった」人が62.6%もいます。それだけ性暴力被害は人に知られたくないことなのです。それは「警察に連絡・相談した」がわずか4.1%しかないことからもあきらかです。

2000年に刑事訴訟法の一部が改訂され、法廷で被害者が証言する時に、一定の保護の措置が取られるようになりました。起訴状を朗読する時に、被害者を特定する固有名詞を省くようになりました。また、被害者が証言する時には、以前は証言台に立ち、傍聴人に姿が見られていたのですが、姿・素顔がさらされないように、傍聴席との間に遮へい措置が施されたり、別室で証言できるビデオリンク方式も選択できるシステムに変更されました。したがって、被害者は傍聴人に顔を知られることなく証言できるのです。

性暴力被害者は被害を受けたことを誰にも知られたくないという気持ちが非常に強いことが多いのです。それで司法も改善しました。同じような配慮が法廷外でも必要なことはいうまでもありません。

  今回の事件の報道では「被害者を特定する」ような報道がたくさん流されました。「被害者が特定されかねない」情報が報道されることによって、被害者は周囲の好奇の目にさらされ、深く傷つきます。

そうした報道は、市民の権利として被害を訴えることが保証され、裁判でもその人権を保護されるはずの「被害者の人権」を踏みにじる行為(二次被害、セカンドレイプ)であり、「報道被害」であると強く抗議するものです。

 今後は、被害者を特定するような情報を報道しないよう要望します。

 

2、 強姦は人権を侵害する犯罪です。

  だから、被害者の受けた被害を軽んじることは許されません。

 

 強姦は、日本では被害者がケガでも負っていない限り刑法上強盗よりも軽い犯罪でしかありません。しかし、フランスでは、一番重大な「生命に対する侵害」の次に重い「人の身体的・精神的完全性に対する侵害」として、拷問及び野蛮行為、暴行・脅迫、過失傷害と同列に並べて規定されています。また、ドイツでは、1980年代から強姦について報道されるたびに「強姦は魂の殺人である」という表現が使われるようになったそうです。強姦のダメージは深刻なものであるということは、今や国際的な常識なのです。

 

 アメリカの調査によるとPTSDの発症率は、自然災害で4.5%、事故で7.6%、身体的暴力で11.5%、そして強姦ではなんと55.5%です。日本でPTSDが知られるようになったのは、阪神淡路大震災後からですが、あの悲惨な自然災害の被害者のPTSD発症率と比べて、強姦被害ではその12倍という高さです。PTSDになると、フラッシュバックが起きたり、人混みが怖くて外に出られなかったり、ちょっとした物音でもびっくりして動けなくなったり、記憶がとんでしまったり、そういうことが被害者には起こります。また、PTSDだけではなく鬱の症状が出ることもあります。このような症状が出ると、その人の生活に大きな影響を及ぼすので、被害者が回復するためには、社会が被害者への理解を持つこと、適切なサポートを受けられるようにすること、心理学的な支援を保障することが欠かせません。

 今後は性暴力被害を軽んじるような報道はしないよう要望します。

 

3、 強姦神話とセカンドレイプは、被害からの回復を妨げます。

だから、「強姦の原因が被害者にある」かのような報道は許されません。

 

性暴力被害者の回復のプロセスはそれぞれですが、長い場合何十年もかかることがあります。

それは、社会的サポート体制が不備であること、刑法強姦罪の成立要件(抵抗出来ない程の暴行・脅迫があったことを被害者が証明しなければならず、結果被害者が裁かれる)が実態を無視したものであることと関係しています。

また、回復を妨げるものとして「強姦神話」があげられます。「強姦神話」は実際の強姦被害の実態を無視した「社会的偏見」と言い換えてもいいでしょう。間違った「性の神話」(男の性欲は強く、衝動的)を土壌にして、「強姦は女が男の性欲を刺激するようなことをするから起こる。女性は慎むべき」というメッセージを送っているのが「強姦神話」です。

しかし、性暴力が、性欲が強くて抑えられないから起こるのであれば、10代の加害者が一番多いはずですが、実際には10代は少なく、20代が多いのはどういうことでしょうか。加害者研究では、多くの加害者は、見た目の派手な女性ではなく、警察に訴えなさそうな女性を選び、衝動的にではなく計画的に犯行を行っていることが知られています。

「男を誘うような服装をしていたから」「若い女性が被害に遭う」「魅力的な容姿の女性が被害に遭う」などの言説は、「強姦神話」そのものです。そして「強姦神話」は、被害者を責め、加害者を擁護するものです。

今回の事件の報道では被害者の容姿を強調するような報道もありました。これは「魅力的な容姿だから、加害者が強姦したくなるのはやむをえない、という加害者擁護論につながるセカンドレイプです。

 

また、事件後何年経過しても、加害者の姿を目にする事態が生じれば被害者のフラッシュバックが起こりかねず、回復の妨げにしかなりません。今回の事件では、加害者がテレビ復帰できるかできないかなどを安易に話題にする発言や報道がありましたが、このようなことは厳に慎むべきです。

 

 

4、強姦についての論調に「中立」はあり得ません。

  だから、加害者擁護につながるような報道を改めて下さい。

 

冒頭でもたずねましたが、貴社はどのような姿勢で犯罪報道をしていますか。私たちはぜひ、犯罪を許さないという「被害者の立場」に立ってほしいと思います。

「被害者の立場」に立たない限り、加害者に加担することになります。たくさんの視聴者・読者が「見たい、聞きたい、知りたい」という欲望を露わにします。この欲望に答えようとすれば、「加害者の立場」に立つことになります。

被害を表沙汰にした性暴力被害者は、前述のような「強姦神話」の影響を受けた周囲から「お前が悪い」と責められ、孤立無援の状況に置かれることがとても多いのです。被害者は、報道を見聞きするたくさんの第三者に、バッシングされるのではなく、自分の受けた苦しみ、恐怖を正しく知ってもらい、支えてほしいと思っているでしょう。

今回の報道は「中立」を装いながら、被害者を孤立させ、加害者を擁護する論調であったといわざるをえません。「被害者の方のつらさをお察しします」「こんな犯罪は許されません」と一応言っておいて、「まだ若いんだから」「こんなにテレビ関係者に迷惑をかけて」などと加害者の将来や経済的打撃を気にかけるようなコメントや報道ばかりすることは、一生苦しむかもしれない被害者の被害を「取るに足らない」と無視し、「加害者の方が大変だ」と言っているに等しいのです。

報道する側の「性」意識を問い直し、加害者擁護につながるような報道をしないよう要望します。

 

5、本当の被害者理解、被害者へのサポートになる報道を要求します。

 

 ここまでは、抗議として、今後しないでほしいことをあげましたが、最後に貴社にひとつ、してほしいと思うことを提案します。

 今回の報道では、性暴力被害を理解し、被害者を擁護し、応援する論調は一部のインターネットでの発言を除いてマスコミと言われる報道機関においては全くありませんでした。貴社の報道の誤りを正すような、性暴力被害者をサポートする立場に立つ「有識者」を迎えた企画(番組なり特集記事なり)をぜひともつくってください。

 

 

追記:その1

 この抗議文・要望書を作成するにあたり、事件の被害当事者の方には前もって承諾を得たかったのですが、連絡をつけることはできませんでした。

今回の私たちの行動は、その被害女性の方への応援メッセージでもあります。 今後のプロセスの中で、その方がどのような選択(示談に応じることも含む)をしようとも、私たちはそれを支持し、擁護していくことを追記します。(追記日9月8日)

 

追記:その2

 この抗議文を出す準備をしている時に「高畑裕太元容疑者不起訴」のニュースと弁護人のコメントが発表されたので、以下を付け加えます。

 高畑裕太元容疑者の代理人の女性弁護士のコメントには「男性の方に女性の拒否の意思が伝わったかどうかという問題があります。伝わっていなければ、故意ではないので犯罪にはなりません。(中略)高畑さんは同意があると思っていた可能性が高い」とあります。

 しかし、同意は明確なものでなくてはなりません。日常的に、契約など約束事を交わす場合を想定してみれば、分かることです。片方が合意したいと思っても、もう一方が同意したくないと思えば、合意が形成されることはあり得ません。なぜ、性行為に関しては、片方が勝手に合意と思っただけで、もう片方の不同意が否定されるのでしょうか。これでは思い込みの強い加害者、相手の不同意を不同意と認識できない「認知の歪み」のある加害者が、後で「被害者の合意があると思った」と言いさえすれば、強姦は犯罪でなくなってしまいます。穿った見方をすれば、今後「同意があると思った」と言えば強姦しても罪を逃れられると、性暴力加害者予備軍がその手口を学習し実行する恐れすらあります。

 合意が双方とも認識できる明確なものであったかどうかが問題であり、それさえも明らかにされずに、不起訴になってしまう現行刑法それ自体が、不当であり不合理なものであると私たちは考えます。国連女性の地位向上部が出した『女性への暴力防止・法整備のためのハンドブック』(2009年)は次のように提起しています。「『はっきり表現された自発的な同意』がなかったこと、そして、暴力被害を訴える女性/サバイバーが同意したかどうかの判断にあたって、加害者とされる側に被害者の同意を確認した経過があることの証明を要求すること」として、「明確な同意なき性行為は違法だ」と定義しています。従って、今後も上記に述べた私たちの思いは変わりません。

 また、不起訴になりつつ、このような「加害者」側の一方的な解釈だけが広く取り上げられることになれば、このこと自体がメディアを利用した暴力的な行為になると考えます。「被害者擁護」の立場に立った報道をされるよう切に望むものです。(追記日9月11日)

 

 

2016年9月 日

 

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